ソーシャルキャピタルとは?企業がソーシャルキャピタルを高めるメリットを解説
ソーシャルキャピタルとは、人々の間の信頼、相互作用、ネットワークのこと。
企業にとってソーシャルキャピタルを高めることは、様々なメリットがあります。
ソーシャルキャピタルが豊かな企業では、社員同士のコミュニケーションが活発になり、情報共有が促進されます。社員のつながりが強化されることで、生産性や創造性が向上するのです。
また、顧客や取引先との関係性も強化されます。ソーシャルキャピタルが豊かな企業は、口コミによる評判が高まり、ロイヤルティも向上しやすいでしょう。
この記事では、このようなソーシャルキャピタルのメリットについて詳しく解説していきます。
ぜひ最後までご覧ください。
目次
ソーシャルキャピタルとは?
ソーシャルキャピタルとは、組織やコミュニティの基盤となる相互関係の質を指す概念。
信頼、共感、そして相互作用のような非物質的な資源を表すために用いられています。具体的には、個人間の繋がりや、グループ内外のネットワーク、共有される社会的規範や価値観などです。
社会的資本とも呼ばれるこの概念は、物的資本や人的資本とは異なり、人々の間の見えない絆や信頼感によって成り立っています。
これらは、社会や組織の効率性を高め、協力や協働を促進する重要な役割を果たします。例えば、信頼の高い社会では、情報の共有や助け合いが活発に行われ、組織やコミュニティの全体的な生産性が向上する傾向があるのです。
政治学者ロバート・パットナムによると、ソーシャルキャピタルは、社会の結束力を高め、共同での問題解決を容易にするとのこと。
彼の研究では、「ソーシャルキャピタルが豊かな社会では、市民が社会的、政治的な活動により積極的に参加し、結果として社会全体の福祉が向上する」とまとめています。
ソーシャルキャピタルを構成する3つの要素
ソーシャルキャピタルは
①信頼
②規範
③ネットワーク
の3つの構成要素から成り立っています。
順番に見ていきましょう。
①信頼
「信頼」は、ソーシャルキャピタルを構成する3つの要素の中で最も基本的なもの。
相手を信頼することで、コミュニケーションが円滑になり、取引の効率が向上します。
特に、信頼が築かれているビジネス関係では、不必要な疑念や心配が減少します。
例えば、顧客が企業を信頼している場合、彼らは商品の品質や納期に関する不安はほとんどないでしょう。
企業は顧客満足度を高めることに集中でき、長期的な関係を築くことが可能です。
一方で、信頼が欠如している場合、企業は余分な時間やリソースを費やして不安を解消し、関係を保つための努力をする必要があります。
これは、納期の遅延や品質の問題など、取引におけるリスクを増大させることにつながるかもしれません。
信頼関係の構築は、ビジネスでの成功に不可欠。
お互いの期待に応え、約束を守ることで、信頼は徐々に築かれていきます。
信頼はソーシャルキャピタルの核なのです。
②規範
「規範」は、社会的な行動の基準や規則を指し、互酬性の原則を基本とした考え方です。
互酬性とは、何かを提供した際に将来的に何らかの形で返礼を受けることを期待すること。
「均衡のとれた互酬性」では、取引時に等価値のものを交換することが期待され、短期的な関係でも公平性が保たれ、信頼が構築されるのです。
一方で、「一般化された互酬性」は、直接的な等価交換ではなく、長期的な関係の中でバランスがとれることを指します。
これは、即時の利益追求よりも長期的な関係性の構築に重点を置く考え方で、ビジネスにおいて深い信頼関係を築く上で非常に重要です。
規範によって形成されるこのような互酬性の原則は、企業や組織における関係性の質を高めることに間違いなく貢献する考え方になります。
種類 | 定義 | 特徴 |
---|---|---|
均衡のとれた互酬性 | 直接的で等価値のものを同時に交換する。 | 短期的な関係での公平性を確保。 |
一般化された互酬性 | 即時の等価交換ではなく、将来的にバランスが取れることを期待する交換や持続的な関係性。 | 長期的な関係構築に焦点を置く。 |
③ネットワーク
「ネットワーク」とは、人と人とのつながりのことを指します。ビジネスや日常生活において、人間関係は極めて重要です。
このネットワークには、主に「垂直的なネットワーク」と「水平的なネットワーク」という2つの形態があります。
垂直的なネットワークは、階層や地位に基づくつながりです。
これには、上司と部下、教師と学生などの関係が含まれ、しばしば権威や指導の枠組み内での交流が行われます。
このタイプのネットワークは、組織内でのコミュニケーションや指導の伝達に重要な役割を果たします。
一方、水平的なネットワークは、平等な立場の人々間のつながりを指し、友人関係や同僚間のネットワーク。
この形態のネットワークは、より開かれたコミュニケーションと協力的な関係を促進し、新しいアイデアや情報の共有に有効です。
ビジネスにおいては、水平的なネットワークが特に重要であるとされます。
この種のネットワークは、お互いに利益を提供し合い、協力的な環境を生み出す傾向があるからです。
ネットワークの種類 | 定義 | 特徴 |
---|---|---|
垂直的なネットワーク | 上下関係がある人間関係やコミュニティ | 階層や地位に基づく交流、権威や指導が中心 |
水平的なネットワーク | 横のつながりを重視する人間関係やコミュニティ | 平等な立場の人々間のつながり、開かれたコミュニケーション |
企業、従業員がソーシャルキャピタルを高めるメリット7選
ソーシャルキャピタルを高めるメリットはたくさんありますが、ここでは特に重要なものを7つだけを選んで解説しています。
①事業が円滑に進む
ソーシャルキャピタルが充実しているビジネス環境では、企業間の協力関係が深まり、競争よりも共創の文化が育ちます。
このような環境では、企業が互いの強みを尊重し、相互に利益をもたらす形で協力することが可能です。
例えば、同じ業界の異なる企業が協力することで、それぞれの独自性を保ちつつ、顧客に対してより幅広いサービスを提供できるようになります。
企業は価格競争に陥ることなく、市場での持続可能な成長を実現することができます。
また、ソーシャルキャピタルが高まることで、信頼と相互理解に基づくビジネス環境が築かれます。
企業同士が互いに情報を共有し、協力することで、新しいアイデアやイノベーションが生まれやすくなり、事業の発展にも寄与するかもしれません。
②職場内の関係性をよくすることができる
社内のソーシャルキャピタルが充実することで、社員間のコミュニケーションが活発になり、相互の支援と協力が自然と行われるようになります。
ソーシャルキャピタルが強化された職場では、社員が互いに信頼し合い、よりオープンに意見交換を行うことが可能です。
これにより、問題解決やアイデアの創出が容易になり、ビジネスの効率化が図られます。また、社員が支援し合う文化が根付くことで、困難な状況に直面した際にも協力する文化の醸成ができるでしょう。
社員のモチベーションを高め、ストレスを軽減する効果もあり、社員の離職率といった課題にも効果的です。
③企業のイメージアップになる
ソーシャルキャピタルを強化するために企業が取り組む社会貢献活動やCSR(企業の社会的責任)活動は、会社のポジティブなイメージを構築する上で効果的です。
企業が地域社会や環境への配慮を見せることで、顧客や投資家、そして将来の従業員からの信頼を獲得しやすくなります。
企業のイメージアップは、優秀な人材を引きつける要因ともなります。
良い評判を持つ企業は、働きがいや社会的意義を重視する人材にとって魅力的な職場に映り、企業はより高いスキルとモチベーションを持つ従業員を確保し、競争力をつけるでしょう。
④健康・教育を促進し、幸福度が高まる
ソーシャルキャピタルが充実している環境では、個人が他者との強い絆を築き、サポートネットワークを持つことが容易になります。
このようなネットワークは、ストレスや悩みを共有し、解決策を見つけるのに役立ちます。
ストレスの原因のほとんどが人間関係であると言われているように、人間関係が充実していると、心理的な安定感が得られ、精神的な健康が促進されるのです。
また、ソーシャルキャピタルが高いコミュニティは、教育機会の向上にも寄与します。
相互支援と協力の文化は、知識やスキルの共有を促し、学習機会を広げ、従業員自らの学ぶ意欲が高まり、教育の質が向上するでしょう。
⑤経済促進効果に期待
ソーシャルキャピタルの強化は、経済成長にまで関係します。
例えば、求職活動。
求職活動においても、ソーシャルキャピタルは重要です。
友人や家族、知り合いからの情報提供や紹介により、新たな就職機会が生まれる可能性が高まります。
これは「橋渡し型」のソーシャルキャピタルとして知られ、個人のキャリア発展だけでなく、経済全体の活性化に寄与することが期待されています。
⑥犯罪率・不祥事の低下
顔を合わせる機会が多いコミュニティでは、お互いに対する理解が深まり、信頼関係が構築されます。
これにより、犯罪や不祥事の発生を未然に防ぐ効果が期待できます。
人々がお互いを見守り、サポートする環境は、犯罪の抑止力となり得るからです。
企業発展の観点とは少し異なりますが、ソーシャルキャピタルが充実している場所では、孤独死や自死のリスクも低下する傾向にあります。
地域コミュニティや家族間での支援体系が整っていれば、孤立感や不安を感じやすい人々が適切な助けを受けやすくなります。
子育てや家庭の問題に関する相談がしやすい環境は、社会的なサポートを受ける機会を増やし、心理的な安定につながります。
⑦技術革新の促進
水平的ネットワークを通じて、異なる企業や専門家が協力し合うことで、新しいアイデアや技術の交換が活発になります。
このような協力関係は、互いに異なる視点や専門知識を持つ人々が集まることで、創造的な発想を刺激し、イノベーションを生み出す肥沃な土壌を作り出します。
また、ソーシャルキャピタルを重視することは、新しい技術や製品開発のための研究開発活動を加速させることにもつながります。
異業種間の協力や共同研究が、従来の枠組みを超えた新たな解決策や技術の開発を促し、市場での競争力を高めてきた事例は数え切れません。
企業がソーシャルキャピタルを高める取り組み事例
企業がソーシャルキャピタルを高めるための具体的な取り組み事例を紹介します。
ジョブローテーション
ジョブローテーションは、従業員が定期的に異なる部署や職種に移動し、多様な業務経験を積む制度。
この取り組みは、従業員のスキルセットを拡大し、職業的な成長を促進するだけでなく、社内のコミュニケーションと相互理解を深めるためにも重要です。
ジョブローテーションにより、従業員は様々な部署やチームで働く機会を得られるため、異なる視点やアプローチを学び、新しいスキルを習得することが可能になります。
コミュニケーションも促進されるでしょう。
また、異なる部門間での経験は、従業員に新たなキャリアの可能性を開示し、適性や才能を発見するきっかけにもなります。
メンター制度の導入
メンター制度では、経験豊富な先輩社員がメンターとして、若手社員のキャリアや仕事に関する指導と支援を行います。
メンターは、上司とは異なる立場で、若手社員の成長を促進する役割を担う人です。
メンター制度を通じて、若手社員は日々の業務やキャリア形成に関する疑問や悩みを気軽に相談できるようになります。
社員は仕事に関する知識やスキルを効果的に身につけることができるだけでなく、職場における心理的なサポートも受けられるようになるのです。
若手社員の帰属意識や満足度の向上に検討してみるのもいいでしょう。
オフィスレイアウト
オフィスの物理的な配置を変更することで、社員間のコミュニケーションと交流を促進し、ソーシャルキャピタルの強化を図ることが可能です。
例えば、フリーアドレス制度の導入は、社員が固定された席に縛られることなく、異なる場所で働けるようになります。
従業員は日々異なる同僚と交流する機会を得られ、新たな人間関係を築くことができるでしょう。
社内の異なる部署の社員同士がコミュニケーションを取りやすくなることで、部門間の壁が低くなり、組織全体の連携が強化も期待できます。
オフィスレイアウトの変更によるコミュニケーションの活性化は、新しいアイデアや創造的な解決策の発想を促進し、社員が気軽に意見交換を行える環境が整うと、従来にはなかった革新的なアイデアが生まれやすくもなります。
レクリエーション
日常業務では交流の機会が少ない社員同士が、レクリエーション活動を通じてコミュニケーションを図ることで、相互理解が深まります。
チームビルディングを目的としたゲームや楽しいアクティビティは、社員間の壁を取り払い、オープンでフレンドリーな雰囲気を作り出すのに役立ちます。
職場の人間関係の壁を壊すのに役立つレクリエーションですが、レクリエーションを好まない従業員がいることも忘れてはいけません。
●実施時間帯
●勤務としての扱いなど
このあたりの懸念点がある場合にはレクリエーションの実施そのものが逆効果となる可能性があることに留意が必要です。
グループインセンティブ
グループインセンティブは、チームまたはグループ単位での成績や成果に基づきインセンティブを提供することにより、グループ内の連携と協力を強化します。
グループインセンティブ制度は、チーム全体の目標達成に焦点を当てることで、個々の社員の単独成績よりもチームとしての成果を重視。
これにより、社員間の相互作用と協力が促進され、全体としての効率性や生産性が向上します。
地域貢献
地域貢献とは、この活動は、地域社会における企業の役割を重視し、社会的責任(CSR)を果たすこと。
CSR活動の代表例には、環境保護の取り組みや社会的弱者への支援などがあります。
これらの取り組みを通じて、企業は地域社会との良好な関係を築き、社会全体の向上に貢献します。
具体的には、地域清掃ボランティアへの参加や、ボランティア休暇制度の導入など、社員が地域活動に積極的に関わることを支援することが考えられます。
ソーシャルキャピタルの注意点
メリットが多いソーシャルキャピタルですが、注意点もあります。
成果主義になってはいけない
ソーシャルキャピタルの取り組みでは、短期的な成果を追求することが避けられるべきです。
その理由は、ソーシャルキャピタルの効果が短期間で顕著に現れるものではなく、その成果を測定することが困難だからです。
企業や組織がソーシャルキャピタルの構築に取り組む際、即時の成果や具体的な数値指標に焦点を当てることは、長期的な目標やビジョンを見失う原因となり得ます。
ソーシャルキャピタルは、地域社会との関連性や社内環境の改善など、長期的な視点での効果が期待される取り組みなのです。
コミュニティ同士が対立する可能性
ソーシャルキャピタルが高まることで、あるコミュニティ内では強い結束感や共有された価値観が生まれますが、それが排他性を生むリスクもあります。
特定のグループが強い一体感を持つことによって、他のグループや意見との間に分断や対立が生じる可能性があります。
このような状況は、社会的な分断を引き起こし、異なるコミュニティ間の対話や協力の機会を減少させるかもしれません。
例えば、あるグループの利益を追求することが、他のグループに対する差別や偏見を助長する場合を想定してみましょう。
このような排他的な状況は、結果的に経済パフォーマンスの悪化や社会参加の機会を制限し、多様性や個々の特性の尊重を損なうことにつながります。
ソーシャルキャピタルが悪用される可能性
ソーシャルキャピタルは、犯罪の減少に寄与することが期待されますが、内向きで閉鎖的な性質を持つ場合、反社会的な目的に利用される可能性もあります。
このような悪用を防ぐためには、特定のグループの利益だけを目指すのではなく、あらゆる人がソーシャルキャピタルにアクセスできる包括的なアプローチが必要です。
ソーシャルキャピタルの形成と活用においては、社会的および民主的な目的を念頭に置き、全体の利益に貢献する方向で取り組むことが重要です。
ソーシャルキャピタル向上に取り組んだ企業の事例
ソーシャルキャピタルの向上のために実際に企業が取り組んだ事例を紹介します。
ベネッセ
ベネッセは、教育事業を通じて社会貢献し、ソーシャルキャピタルの向上に取り組んでいる企業の一例です。
同社は、「ベネッセ教育総合研究所」を通じて、教育の質や環境向上を目指す様々な調査や研究を行っています。
これらの活動により、教育関係者とのネットワークが構築され、教育業界全体の質の向上に寄与しています。
また、ベネッセは「地域との価値共創」を活動方針の一つとして掲げ、地域社会との連携を強化しており、地域コミュニティの発展にも貢献し、教育分野での社会的責任を果たしています。
ベネッセの取り組みは、教育分野におけるソーシャルキャピタルの強化と社会への貢献の良い事例として今後も注目されていくでしょう。
Googleも、社員の幸福度と生産性向上に向けて、ソーシャルキャピタルの育成に注力している企業の一例です。
同社は、社員間の交流と協力を促進するために、オフィスのレイアウトや食堂のデザインに工夫を凝らし、魅力的な空間を提供しています。
また、社員のスキルアップと相互学習を支援するためのプラットフォームを提供し、社内のコミュニティグループやクラブ活動を通じて、社員が個人的にもコミュニティ全体としても成長できる機会を創出しています。
これらの取り組みにより、Googleはイノベーションの促進と企業競争力の強化に貢献するソーシャルキャピタルの構築に成功しています。
その結果、社員満足度を高めるとともに、業界をリードする企業としての地位を確固たるものにしているのです。
まとめ:企業がソーシャルキャピタルを高めるには人材育成
企業のソーシャルキャピタルを高めるためには様々な取り組み・手法がありますが、その根底にあるのは人材育成です。
幸福度の高い従業員が育てば、周囲(地域や顧客)に幸福を与えてくれるようになっていくでしょう。
重要なのは、人材育成が表面的なものではなく、本質に根付いたものになっているかどうかという点です。
ソーシャルキャピタル向上のために試行錯誤をすることも大切ですが、形だけのソーシャルキャピタルではなく、心から納得と満足ができるソーシャルキャピタルの向上に努めることが大切です。
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