DXの推進部署はつくるべき?部署ごとにできる小さなDX
「DX推進を組織で注力するために、専門部署をつくるべきなのか?」
これはよく寄せられる質問の一つです。
結論から申し上げると、「推進部署をつくる」「推進部署をつくらない」はどちらでもよいというのが回答になります。
部署があるかないかは重要ではないのです。
事業内容によっては、サービスを提供している部署でDX人材の育成を行い、そのままDXを推進していく方がいい場合もありますし、商品企画をする部署が同時にDXを推進した方がいい場合もあります。
もちろん、DX推進部署を新しく組織の中に設置して成功させたという企業もあります。
すでに組織の中には人事、経理、営業など役割分担がなされているのであれば、その部署ごとに小さなDXをスタートさせ、それらを統合させていくことで組織全体での効率化につなげることで実践的なDXを推進することも可能になるでしょう。
この記事では、DX推進部署をつくる場合の手順や注意点、つくらない場合のDXのスモールスタートについて紹介しています。
※小さなDX
ここでの “小さなDX” とは、DXの前段階である “デジタイゼーション”や “デジタライゼーション” のことを言います。
目次
DX推進部署は、つくるべきなのか
冒頭でも述べたように、組織内に新しく「DX推進部署」を設置することが必ずしも必要というわけではありません。
DX推進部署をつくってDXを推進した気持ちになっていると、他の部署はDXに対して関心を示さなくなります。
組織としての問題意識が薄れてしまうのです。
かといって、DXに詳しい部門をつくることはデメリットだけではありません。
DX推進部署の3タイプ
DX推進部署を新設する場合、以下の3タイプが考えられます。
どのタイプにも一長一短があるので、どのような人材で構成するのがいいかのヒントにしてください。
サービス部門中心タイプ
現場中心タイプと言い換えることもできます。
現場目線、サービス提供をする側からして、どのような仕組みになれば効率的になるのか、お客様のためになるのかを考えて、その声を反映させながらDXに向かうことを目指すタイプです。
現場目線の声には、市場のニーズが含まれていることもあり、DXが成功すれば大きな利益を生み出す可能性もあります。
デメリットとしては、自分たちだけでDXを進めることはITに精通する知識がないと難しいこともあり、実現するのに膨大な時間・費用がかかってしまうことです。
自社組織内にITに精通した人材を抱えていない場合には、育成からスタートしなければいけません。
DXは時間との勝負である側面もあり、時間をかけて完璧を目指すよりも、少しずつ変革を起こしながら改良を重ねるアジャイル方式の方が上手くいく場合が多いです。
サービス部門中心タイプのDX推進部署の設置を考える場合には、社内にリスキリングを強く希望する人材がいるか、ITに精通した人材がいるかを調査したうえで慎重に検討しましょう。
IT部門中心タイプ
組織内にIT部門がある場合、その部署が中心となってDXを推進していく方法があります。
こちらの場合は、システム開発まで自社で行える可能性が出てきます。
外部に莫大な費用をかけてシステム開発を依頼するよりもコストの面だけを考えるとメリットが大きいようにも思えます。
ただし、現場目線の考え方が欠けている可能性もあり、お客様に最も近い現場社員のニーズが的確に反映されないというデメリットがあります。
IT部門を中心として現場のDXを進めていく場合であっても、現場社員の声が拾えるような仕組みは作っておけるといいでしょう。
中間タイプ
上記2つのタイプの中間をとるタイプになります。
DX推進部署を新設する場合には、このタイプの部署になることが理想的です。
現場の声とIT部門の考えがリンクして、システム開発を行うにしても、スムーズかつ完成度の高いものができあがることが期待できます。
DXが注目を集めている昨今では、このタイプでDX推進部門をつくる企業(製造業や研究開発業)が増えてきています。
DX推進部署が失敗する事例3選
DX推進部署をつくっても、DXが成功するとは限りません。
しかし、ここで紹介する失敗の事例はDX推進部署をつくったかどうかに関わらず、DX推進が上手くいかない組織に共通している項目でもあります。
DX推進部署をつくり、会社全体でDXを推進していくというムードになっていても、
推進部署が
・ビジョンが不明瞭
・予算の確保ができない
・人員の確保ができない
状態では、スムーズなDX推進は難しいでしょう。
ビジョンが不明瞭
「DX」という言葉だけが独り歩きしてしまう失敗ケースになります。
ビジョンは本来、経営陣が明確にしておき、それを社員に共有するという順序でなされるのが普通ですが、経営サイドでも、「DX推進部署をつくれば、その部署が何とかやってくれるだろう」と思っているケースもあるのです。
経営サイドに方向性を示してもらえないと、DX推進部署でも何を目的にして取り組んでいいのかわかりませんし、「やりたいこと」と「やっていいこと」の違いがはっきりしません。
細かいことはDX推進部署に任せたとしても、大枠は経営サイドが決めなくてはいけません。
予算の確保ができない
予算確保もDX推進における重要な課題です。
システム開発を自社で行う場合であっても、システム開発ツールは必要になります。
開発を進めるにあたって、自社内の人材だけではどうにもならないことが出てくれば外部へのコンサルをお願いすることもあり得ます。
しかし、何をするにしても費用がかかります。
コストゼロで開発を進めることは絶対にできません。
程度の差はあれ、どこまでの予算が使えるのかを事前にチームが把握できている状態で推進部署を立ち上げたのと、勢いだけで立ち上げたのとでは結果に違いが出てくるのは当然です。
経営陣の問題でもありますが、DX推進にかける予算を運営部署にまで共有できているかを考え直してみましょう。
予算確保が問題になる前に、推進部署を立ち上げる前にデジタル人材を経営陣に組み込んでおくことも対応策の一つです。
組織によっては、デジタル分野の統括責任者であるCIOやCDOという役職を設けていることもあります。
人材の確保ができない
サービス部門、いわゆる現場中心でDX推進部署が立ち上がった場合には、人材の確保に悩まされるケースがあります。
自分たちの理想的な構想が明確になっても、その理想を実現させる開発エンジニアがいないのでは、実現はしません。
「外部に委託すれば大丈夫」と安直に考えることも危険です。
外部に頼む場合であっても、その外部機関も人材不足に悩まされているケースがあるのです。
会社にDX推進予算があっても、人材を物理的に確保することが困難なときがあります。
大きく始める前に、想定される問題は予めピックアップしておき、事前に連携をとっておくと、実際にDX推進部署が立ち上がってからのトラブルは減るはずです。
DX推進部署をつくる場合の手順
DX推進部署をつくる判断をした場合、どのような手順で進めればいいのでしょうか。
ここでは、先ほど解説したDX推進部署を組織した後の失敗に陥らないよう手順を順序立てて解説していきます。
具体的な順序は、
①DXビジョンの明確化と共有
②経営陣のサポート体制の確立
③自社のITパラメータを測定
④人材確保と人員再配置
⑤ロードマップの作成と実行
です。
順番に詳しく見ていきます。
①DXビジョンの明確化と共有
ビジョンを設定するのは経営者の役割です。
何のためにDXを推進したいのか、どのようになればビジョンに近づいたということができるのか。
なるべく具体的なものに落とし込めるまで何度も掘り下げていくことが重要です。
ビジョンを明確にするのと同時に、今のシステムをそのままの形で維持し続けたときのコスト試算もしておきましょう。
コストの削減だけであっても十分にDXを推進させていく理由になり得ます。
②経営陣のサポート体制の確立
DX推進部署だけが社内の中で浮いている状態ではDXは進みません。
経営者が全力でバックアップしているということを社員に感じてもらうことが大切になります。
方向性を決めることや予算の承認をするのも最終的には経営陣です。
軌道に乗ってから「コストの面で実現ができるものでなかった」とならないように、費用面は推進部署に心配されないような体制を整えていくことがいいでしょう。
先にも述べましたが、CIOやCDOなど、経営幹部にデジタル推進を統括する役員がいれば、部署内で生じた問題を経営会議などに持ち込んでもらいやすくなります。
③自社のITパラメータを測定
自社のITパラメータを測定します。
ただ何となくツールを導入して終わってしまうと、使いこなせないまま、あるいは便利になったはずなのにも関わらず、不便になったと感じる社員が出てくる可能性すらあります。
自社のITパラメータとは、今現在どこまで社内でIT化が進んでいるのかということにとどまらず、社員のITリテラシーの高さを測ることも含まれます。
会社としてデジタルツールを使いこなすことができる体力がどのぐらいあるのかを事前に知っておくことで、必要なデジタル人材の標準ラインが分かってきます。
DX推進部署は、社員のITリテラシーを向上させることも役割の一つです。
自分たちだけが理解し、使えればいいというだけでなく、最終的に会社全体でデジタル人材に困らないような計画を立てていく必要もあります。
④人材確保と人員再配置
経営ビジョンが明確になり、経営陣の協力も得られることになり、部署の新設が決まったら、いよいよ人員の配置検討段階に入ります。
IT部門がある場合には、その部門からの人の異動もあるでしょう。
現場にデジタル人材がいる場合にも同様です。
社員のスキルを見極め、誰を配置するのがよいのかを検討していきます。
人材選定の際には社員のモチベーション問題を無視してはいけません。
DX推進は社内に必要な部署ではあるものの、DX推進ではなく、普段通り現場でサービスを提供することにやりがいを感じていたり、今の業務の方がいいと言ったりする社員は必ずいます。
DXは上意下達のトップダウン形式で推進しないとなかなか進まないこともありますが、人員の配置についてはより一層慎重になるべきです。
どうしても社内に必要な人材が見つからない場合には、外部にコンサルをお願いしたり、必要な業務を外注したりすることで補強することも視野に入れましょう。
⑤ロードマップの作成と実行
目指すべき目標へ到達するためのロードマップを作成します。
ロードマップの中身はPDCAを回しやすいような刻み方をするといいでしょう。
ロードマップはビジョンへの道筋です。
・何が
・いつまでに
・どのような状態に
なっていればいいのかが分かるようなロードマップの作成を心がけましょう。
PDCAを回していき、修正する可能性もあるということを念頭におき、あまり無理なプランを立てないようにすることも重要です。
組織内の部署で小さなDXをスタートさせよう
DX推進部を設けなくても、すでにある部署の中で小さくDXをスタートさせることはできます。
経理部、人事部、営業部などの3つの部署において、取り組みやすいデジタル化を解説していきます。
経理部
リモートワークの推進がなかなか進まない部署が経理部です。
理由としては
・紙や捺印が必要になる書類が多い
・データ入力元の情報が紙で管理されており、自宅まで持ち込めない
・担当できる人が少ない、あるいは固定化されている
などがあげられます。
ハンコは電子ハンコ・電子署名などで代替可能です。
クラウドサービスを利用してデータを管理すればペーパーレスにもつながり、作業を属人化させてしまうリスクを回避することもできます。
現在では、領収書があればデータ入力から税務署に提出する書類までを自動で作成してくれるツールやアプリ、サービスもあります。
自動化することでミスを防ぎやすくなり、個人に依存する業務のあり方を変えることもできます。
人事部
人事部で進められている小さなDXは、採用と評価の2種類があります。
【採用】
複数の求人媒体を利用していると、それぞれの求人媒体ごとに入力項目、採用候補者の情報に統一性がないことがほとんどです。
一覧性に欠けるため、情報を比較する際に時間と手間がかかります。
採用候補者の情報を一元管理できるツールの導入によって余計な時間をかけずに済みます。
【評価】
評価を上司の主観的なものだけでなく、数値で客観的に行うことを決めた企業もあります。
賞与査定など、一時的な評価はツールを使って自動化できるところは効率がいいでしょう。
しかし、注意点もあります。
組織内の役職はツールが下した数字だけで決めるのはよくありません。
組織の役職には、仕事での成果よりも人柄や周囲に認められているかどうかなど、多くの要素が複雑に絡み合ってきます。
人員の配置は自動化するのではなく慎重に手動で行うことが望ましい場合が多いです。
営業部
お客様とのリモート面談、営業電話の自動化など、多くの業務で自動化・効率化をしている企業もあります。
「ホームページは企業の顔」と言われる通り、ホームページを用意していない企業はほとんどありません。
セールスファネルの入り口で、なるべく多くのお客様との接点をつくるための工夫をしつつ、売上に直結するクロージングと呼ばれる部分の一本化を図ることで、人とデジタルとの役割分担ができます。
まとめ:DXへ向けた小さな動きが一番大事
DXのためのDXではなく、ビジョンを達成するためのDXであることがポイントです。
DX推進部署をつくらなくても、経理部・人事部・営業部などそれぞれの部署ごとに取り組めることはたくさんあります。
部署をまたいで
・何を
・どのように
することが、全体としてのパフォーマンスを高くするのかを考えながら、自社にあったDX推進に取り組みましょう。
Next HUB株式会社はDXを軸とした人材の育成から就職後の研修・キャリアコンサルタントまでをセットで提供しています。
人材育成や経済・経営に関わる様々な情報も配信中です。
資料のダウンロードもできますので、ぜひお気軽にサービス内容を確認してください。
—
サービス資料ダウンロードはこちら