人事の将来は?DX時代で変わる将来の人事の役割を解説
デジタルトランスフォーメーション(DX)が急速に進む現代において、人事部門がどのように変化し、どのような新しい役割を担うことになるのでしょうか。
AIやデータ分析の進化がもたらす人事業務の効率化、従業員エンゲージメントの向上、リモートワークや多様な働き方への対応など、DX時代の人事は新しい役割を求められています。
テクノロジーを活用した採用、研修、評価制度も従来では考えられないような方法が台頭していく中で、「人事の役割は完全にAIなどに代替されるのでは?」と主張する人たちさえいます。
確かに、従来の人事の役割だけであれば人事部門が不要になるときが来るかもしれませんが、「人事」と「経営」が密接に関われば、「人」にしかできない仕事が生まれることでしょう。
それこそが将来の人事に求められる役割になるのかもしれません。
この記事では、従来からの人事の役割とDX時代に求められる人事の役割についてまとめています。
目次
「従来・今」の人事の主な業務
従来から現代にいたるまで、一般的とされている人事の主な役割についておさらいしていきます。
人事の役割としては、
●人材採用
●人員配置
●人材育成
●組織開発
●人事評価
の5つに区分されます。
これら5つについて人事の業務内容を見ていきましょう。
人材採用
人材採用は、ただ単に新しいスタッフを雇うこと以上の意味を持ちます。
このプロセスは、まず企業が必要とする人材の像を明確にし、適切な採用計画を策定することから始まります。
これには、求める人物像の定義、必要な採用人数の特定、予算の設定、採用活動のタイムラインの策定などが含まれます。
次に、求人募集。
ここでは、魅力的な求人広告の作成や、企業の魅力を伝える採用関連コンテンツの開発、さらには効果的なメディアへの掲載、採用説明会の開催などが行われます。
この段階では、ターゲットとなる求職者に対して、企業の文化や価値観を効果的に伝えることが重要です。
採用プロセスの中核をなすのが選考です。
選考では、応募者の書類選考、面接、グループディスカッション、適性検査などを通じて、最適な候補者を見極めます。
最終的に、内定者に対して通知を行い、内定式の準備、入社に向けた各種手続きの手配など、受け入れの準備を進めていきます。
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}
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人材採用のプロセス
プロセス | 内容説明 |
---|---|
採用計画の策定 | ・必要な人材像の明確化 ・採用人数の特定 ・予算設定 ・採用スケジュール策定 |
求人募集の段階 | ・求人広告の作成 ・採用コンテンツの開発 ・メディアへの掲載 ・採用説明会の開催 |
選考プロセス | ・書類選考 ・面接 ・グループディスカッション ・適性検査 |
内定と入社手続き | ・内定通知の発行 ・内定式の準備 ・受け入れ準備 ・必要書類の手続き |
採用の重要性
採用の重要性 | 内容説明 |
---|---|
採用活動の意義 | ・人員補充以上の戦略的な意味 ・企業の長期的成長に直結 |
競争力と発展 | ・適切な人材獲得による競争力強化 ・持続的な企業発展の支援 |
企業が市場で成功を収め、イノベーションを起こし続けるために、人事部門が最新の採用トレンドに常に敏感である必要があり、適切な戦略とツールを駆使して、最適な人材を確保することが求められるのです。
人員配置
企業の経営戦略を深く理解し、それに基づいて従業員を適切なポジションに配置する業務です。
重要なのは、経営層の意向だけでなく、従業員個々のスキル、経験、そして現場のニーズを総合的に考慮することです。
効果的な人員配置は、従業員が自らの強みを生かし、成長できる環境を提供することにもつながり、適材適所の実現は、業務の効率化やモチベーションの向上にも寄与し、結果的に企業の競争力強化に貢献するでしょう。
人材育成
人事部門では、従業員一人ひとりのポテンシャルを見極め、会社が必要とするスキルや知識の獲得をサポートする役割を担います。
昨今では、人材育成は「人的資本」の考え方のもと、重要視される傾向にあります。
従来の「人的資源」という価値観では、人材にかけられる費用はコストと考えており、そのうえ、「消費すればなくなるもの(消耗品)」の位置づけでした。
一方の人的資本はについて、内閣官房は次のように定義しています。
「人的資本」とは、人材が、教育や研修、日々の業務等を通じて自己の能力や経験、意欲を向上・蓄積することで付加価値創造に資する存在であり、事業環境の変化、ア経営戦略の転換にともない内外から登用・確保するものであることなど、価値を創造する源泉である「資本」としての性質を有することに着目した表現である。
(出典:内閣官房 非財務情報可視化研究会より引用)
人事部門では、「将来に価値創造ができる従業員を育成する」という観点から育成プログラムを構築し、実践していくことが重要です。
人材育成のアプローチとその特徴・メリットは次の通りです。
人材育成のアプローチ | 特徴 | メリット |
---|---|---|
集合研修 | 複数の従業員が同時に同じ内容の研修を受ける。 | コミュニケーションスキルの向上、チームワークの強化に効果的。 |
オンライン研修 | インターネットを通じて研修を実施。場所や時間を選ばず参加可能。 | アクセスの容易さ、時間の柔軟性。リモートワーカーも参加しやすい。 |
eラーニング | ウェブベースの学習プログラムを利用。 | 個々のペースで学べる、多様なコースから選択可能。 |
OJT(On-the-Job Training) | 職場で実際の業務を通じて学ぶ。上司や先輩が指導する。 | 実務に即したスキルの習得、現場感覚の養成。 |
自己啓発 | 従業員自身が資格取得やセミナー参加などを通じてスキルアップを図る。 | 主体性の養成、個人のキャリア開発に貢献。 |
組織開発
人事が企業の必要とする部分を見極め、従業員のスキルアップやモチベーション向上に取り組むのが組織開発。
このプロセスには、現場調査や経営層との議論を通じて、会社の強化点を明確にし、それに基づいた人材育成計画を策定・実行することが含まれます。
組織全体の成長を促進するために、個々の従業員の能力を最大限に引き出すことが人事の重要な役割です。
人事評価
人事部門は従業員のパフォーマンスと能力を公正に評価し、それを給与や昇進などの待遇に反映させる責任を担っており、これが人事評価です。
人事評価システムは、社員のモチベーションを支え、組織の離職率を低下させる効果があり、企業の長期的な安定と成長に寄与します。
労務管理
労務管理は、労働時間が法的規制や会社のルールに遵守されているかの確認、労働に見合った適正な賃金の支払い、そして従業員が適切な職場に配置されているかの管理が求められます。
企業の生産性の向上と、リスク回避の側面から人事の重要な業務で、労務管理がしっかりしているかどうかは企業の信頼度にも大きく影響するでしょう。
分類 | 説明 |
---|---|
労働時間管理 | 従業員の勤務時間、残業時間の管理と記録。法規制遵守を含む。 |
給与計算 | 従業員の給与、賞与、手当などの計算と支払い。 |
労働安全衛生 | 職場の安全管理、健康管理、災害防止策の実施。 |
法令遵守 | 労働関連法令(労働基準法、均等法など)の遵守。 |
従業員福利厚生 | 健康保険、雇用保険、福利厚生プログラムの管理。 |
労働関係調整 | 労使間の交渉、協議、労働争議の解決。 |
バックオフィス業務全般を担うことも
大規模な企業では、人事部門は労務管理など特定の職務に特化し、その分野での専門知識と経験を深めるキャリアパスが一般的です。
一方で、ベンチャーや中小企業では、人事職が単に人事業務に限定されず、総務や経理などの他のバックオフィス業務も幅広く担当することが多いです。
このような環境では、人事担当者は多岐にわたる業務を経験することになり、ゼネラリストとしての能力を磨くことが期待されます。
AIなど自動化ツールの導入が将来の人事に与える影響
AIの活用により、採用プロセスが変貌を遂げている例があります。
エントリーシートの審査をAIが行うことで、これまで手作業に依存していた作業が大幅に削減されているのです。
また、従来の履歴書に代わるAIを活用したインターネットベースのエントリーシートの導入も、データ管理の効率化をもたらし、人事部門の負担軽減に寄与しています。
自動化の波は給与計算などのルーティン業務にも及んでいます。
かつては契約社員が担っていた給与明細の作成が自動化ツールにより効率化され、人件費の削減へとつながっています。
一方で、AIを活用した採用活動に注力している企業の中には、不具合が生じている事例も取りあげられており、人事の業務を完全に代替させることは現状では難しいと言わざるを得ません。
「効率化」を追求することだけにとらわれるのではなく、人事職の業務として残しておいた方がいいものと、そうでないものを区別することが大切と言えるでしょう。
DX時代で人事は不要?ジョブ型雇用でも人事の役割は縮小傾向に
人事職としての仕事として残した方がいいものは残すべき」と書きましたが、ジョブ型雇用へとシフトするにつれて、ここで紹介する項目については少なからず「縮小」も視野に入れた検討が進むと思われます。
人事が担当している
●採用活動
●教育活動
●人員配置・人事異動
●人事評価
について、将来的にどのように変わっていくのかを考えたいと思います。
ジョブ型雇用の企業には人事部門がない企業もあるのです。
採用活動
ジョブ型採用の特徴は、例えば「新設する営業所に向けて5名の営業スタッフが必要」といったように、特定のタイミングで特定の職務に適した人材を適切な人数だけ確保することにあります。
この採用スタイルは、特に経験豊富な人材を対象とした中途採用に焦点を当てており、日本国内の多くの企業では、各ビジネス部門がこのような採用を積極的に行っています。
それぞれのビジネス部門が採用活動を行うことになるため、人事部門としての採用活動の役割が減ることになるでしょう。
教育活動
ジョブ型雇用システムでは、既に一定のスキルと経験を持つ人材を中途採用することが一般的です。
このシステムの下では、日本のように時間をかけて新入社員に対して徹底的なトレーニングを施す文化は見られません。
そのため、同期という概念が希薄であり、新入社員が一斉に同じ教育を受けるという状況も少なくなります。
また、階層ごとに異なる教育プログラムを設けるという発想もこのシステムでは重視されていません。
業務遂行のために特定のスキルや知識が必要とされる場合、その研修は個別の事業部門内で実施されます。
この方法により、実際の業務に即した、より実践的で効率的な教育が可能となり、社員は必要なスキルを短期間で習得し、その能力を仕事に即座に活かすことができます。
この観点からは、教育に関する人事の役割は減っていくことになるでしょう。
人員配置・人事異動
ジョブ型雇用の場合、採用時に応募者に対して、どの職場でどの仕事を行うかを具体的に示し、その基準に基づいて雇用契約を結びます。
そのため、日本企業に見られるような、会社の判断で一方的に従業員の配属先を変更することは通常行われず、従業員の異動はジョブ型雇用では一般的な概念とは言えません。
それゆえ、人事による人員配置や人事異動もありません。
人事評価
ジョブ型雇用においては、企業が特定の職務に対して価格を設定し、その職務を担う従業員を雇用します。
この方式では、企業のニーズに基づき、従業員がその業務に従事する限り勤務を続けますが、業務の必要性がなくなった場合は退職を促す形をとることが一般的です。
このシステムは、日本の典型的なパートタイムやアルバイトの雇用形態と似ており、従業員に対する業績に基づく評価や定期的な昇給の機会は提供されないのが特徴です。
人事業務の「今」のトレンド
人事業務も時代の流れとともに変わってきています。
従来では採用面接は対面で行うのが当然でしたが、今ではリモートで面接を行う企業も増えてきています。
感染症の蔓延による一時的な措置として実施していた企業もあれば、リモートでの採用面接を恒常化させた企業もあります。
人事業務の「今」はどのように変わりつつあるのかをまとめました。
採用活動とテレワーク
株式会社学情(本社:東京都千代田区)が2024年3月卒業(修了)予定の大学生・大学院生を対象に、「勤務スタイル(出社かテレワークか)」に関しての意識調査をインターネットで調査しました。
調査結果によると、働き方の選択肢の豊富さを重視している学生が6割にも上るという結果になっており、就職活動をする側もテレワークなどの勤務体制を重視している傾向が浮き彫りになりました。
(出典:株式会社学情(本社:東京都千代田区) 就職活動において勤務スタイル(出社かテレワークか)は意識しますか)
■調査概要
・調査期間:2022年8月4日~8月25日
・調査機関:株式会社学情
・調査対象:「あさがくナビ2024(ダイレクトリクルーティングサイト会員数No.1)」へのサイト来訪者
・有効回答数:387件
・調査方法:Web上でのアンケート調査
このような背景もあり、採用活動においても企業側もオンラインセミナーを実施したり、選考プロセスそのものをオンラインで実施したりする企業も増えつつあります。
人材確保時においても多様なアプローチを求めることが人事には求められているのかもしれません。
人材育成とリスキリング
人材育成においてはリスキリングが重要視されつつあります。
人事が担う人材育成は、今の業務に必要なスキルを身に付けてもらうことに固執するのではなく、将来の環境の変化も見据えながら柔軟にスキルを身に付けることも大切です。
特にDX人材を社内で育成していくという人材育成戦略は注目されており、政府も助成金を設けています。
「どんなスキルが必要になるのか」を常に気にする人材が人事には必要かもしれません。
リスキリングに関する内容は以下の記事も参考にしてください。
「DXに必要な人材はどうする?DX人材育成とリスキリングの重要性」
人事評価とジョブ型雇用
先ほども書きましたが、日本でもメンバーシップ型雇用からジョブ型雇用への流れになることが見込まれています。
将来的なトレンドとしては、役割と報酬の関連性をルール化する必要が出てくるかもしれません。
労務管理とDX
労務管理は多くの企業にとってコア業務になっていることは少ないと思います。
コア業務に専念することができない企業体質になってしまうと、効率や生産性を低くすることになります。
作業内容も多岐にわたり、一つ一つが重たいものが多いため、自動化できる業務は自動化した方が費用対効果としてもいいケースがほとんどです。
DXの流れからも、ツールに任せられる労務管理は移行していくのが賢明です。
将来の人事の理想、戦略人事
従来のままの人事の役割であれば、人事という部門そのものがいらなくなってしまう日も来るかもしれません。
将来的には戦略人事に携われる人事が理想的です。
戦略人事とは?
米国ミシガン大学のデイビッド・ウルリッチ教授によって提唱されたのが戦略人事です。この概念は、単に人事管理に留まらず、組織全体の戦略的な目標と人材管理を結び付けることを意味します。
具体的には、企業の長期的な競争優位を築くために、人材や組織の構築を経営戦略と密接に連携させることを指し、人事部門は従来の「管理・運用」に加え、「能動的な価値創出」へと役割を拡大させていくことになるでしょう。
従来の人事機能が人材の管理に重点を置いていたのに対し、戦略人事では組織全体の目標に対して積極的に貢献する形での人材戦略の実行が求められます。
このような動向は、人事部門が経営の核心的なパートナーとして、より重要な役割を担うようになることを示唆しています。
戦略人事の4つの役割
戦略人事には4つの役割があり、
①戦略パートナー(HRBP)
②変革エージェント
③管理エキスパート
④従業員チャンピオン
の4つです。
戦略人事では、この4つの役割に分けて、企業の経営方針(戦略)と人事戦略を関連付けて実行する部分を戦略パートナー(HRBP)と呼んでいます。
(出典:『MBAの人材戦略』)
戦略パートナー(HRBP)
HRBPは経営層や各部門のリーダーと密接に連携し、人材戦略を策定し実行するします。
適切な人材の確保、育成、配置、評価、モチベーションの向上など、組織のパフォーマンス向上に直結する活動が含まれ、組織の変革や文化形成にも深く関わり、企業の長期的な成功に貢献することが期待されます。
HRBPは、単なる「人事担当者」としてではなく、「ビジネスパートナー」としての役割を担い、企業経営における戦略的な位置づけです。
このため、ビジネスの理解と人事の専門知識の両方をバランス良く持ち合わせていることが要求されます。
変革エージェント
組織の構造、プロセス、文化などに関する変更をリードし、組織が新たなビジネス環境や市場の要求に対応できるようサポートするのが変革エージェントです。
変革エージェントは、従業員の心理や行動に深い洞察を持ち、変革がもたらす不確実性や抵抗に対処するための戦略を策定する能力が求められます。
管理エキスパート
管理エキスパートとは、人事部門において、組織や従業員を適切に取りまとめ、業務管理を遂行する重要な機能です。
具体的には、会社の戦略に基づき、日常の人材配置や組織管理を行う役割などが含まれます。
適切で正確な管理にはツールの導入も検討されることが多いことから、ツールを使いこなすスキルなども求められます。
従業員チャンピオン
従業員チャンピオンとは、社員の声を聞き、それを人事戦略に反映させる役割を担うことです。
社員の意見を経営に伝え、現場と経営層の間のコミュニケーションをスムーズにすることで、従業員のモチベーション向上と組織全体の成長を目指します。
まとめ:DX時代でも必要とされる人事部門
戦略人事に見た内容は、企業の成長という観点からいずれも重要な役割であり、DXやジョブ型雇用の流れが加速したとしたとしてもなくなることはないでしょう。
ルーティン化した人事としての役割から、人にしかない
●コミュニケーションスキル
●先を読む力
●洞察力
これらを活かすことで時代が変わっても必要とされる人材になることが求められるようになっています。
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