VUCA時代を生き抜くOODAループ思考を解説。DXとOODAループの関連性
現代はVUCA(ブーカ)(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)と呼ばれる時代に突入し、企業や個人は常に変化する環境に適応し続ける必要に迫られています。
このような状況で重要となるのが、OODA(ウーダ)ループ(観察、指向、決定、行動)という思考プロセスです。
本記事では、OODAループ思考がどのようにVUCA時代の課題に対応し、DX(デジタルトランスフォーメーション)とどのように密接に関連しているのかを掘り下げ、VUCAやOODAループ思考の概要から解説しています。
OODAループ思考を理解し、実践することで、常に変化するビジネス環境での生存と成功の鍵を握ることができるでしょう。
目次
VUCA時代とは?
DXと一緒に叫ばれている「VUCA」。
一言で表現すると先が読めない不確実な世界です。
VUCAとは、
●Volatility(変動性)
●Uncertainty(不確実性)
●Complexity(複雑性)
●Ambiguity(曖昧性)
のそれぞれの頭文字をとった造語です。
現代社会の象徴とも呼ばれるVUCA。
どのような社会なのか、特徴を理解しておくことで、企業がとるべき施策が見えてくるかもしれません。
Volatility(変動性)
「Volatility(変動性)」は、経済や社会、技術の領域において、状況が不確定で予測しにくくなる状態を指します。
特に、デジタル技術の進化により、企業や個人は常に変化する市場環境に対応する必要があります。
例えば、インターネット、SNSの普及やモバイルデバイスの進化により、情報の流通が以前に比べて速く、広範囲にわたるようになりました。
これにより、消費者の選択肢が増え、彼らの行動パターンが急速に変化しています。
また、新しいビジネスモデルの登場により、従来の市場の構造も変わりつつあります。
このように、Volatilityは、今日のビジネス環境における重要な要素であり、企業や組織はこれらの変動に柔軟に対応することが求められています。
Uncertainty(不確実性)
「Uncertainty(不確実性)」は、予測不能な出来事が頻繁に起こる状況を指します。
日々の生活やビジネス環境に深刻な影響を及ぼしている事例は数えればきりがありません。例えば、急激な気候変動は農業や経済活動に不確定要素をもたらし、突然の感染症の流行は社会や経済に大きな混乱を引き起こしました。
さらに、技術の進化による職業構造の変化や国際情勢の不安定さは、個人や企業の将来計画を立てる上での困難さを増加させています。
これらは全て、Uncertaintyが私たちの日常生活や経済活動に与える影響の具体的な例です。
このような不確実性が高まる中、どのように対応し、未来を見据えるべきかが重要なテーマとなっています。
Complexity(複雑性)
「Complexity(複雑性)」は、VUCA時代の特徴の一つとして、ビジネスや社会における状況が多層的で、解明が難しい状態を指します。
この複雑性は、技術の進化、グローバルな経済の相互依存性の増加、文化や規範の多様性など、多くの要因によって引き起こされます。
インターネットとデジタル技術の発展により、さまざまな業界や市場が互いに関連しながら進化しています。
また、国際的なビジネスでは、異なる文化、法規制、市場の動向などを考慮する必要があり、これらの要素は単純なビジネスモデルに適用することが困難です。
このように、Complexityは、現代のビジネスリーダーや意思決定者にとって、柔軟かつ革新的な思考と戦略を求める重要な課題です。
この複雑さを理解し、適切に対応することが、VUCA時代を生き抜く鍵となるでしょう。
Ambiguity(曖昧性)
「Ambiguity(曖昧性)」とは、現代のビジネスや社会における複雑な相互関係の中で、物事の明確な理解を難しくする状態を表します。
これは、変動性、不確実性、複雑性が重なり合うことによって生じるもので、特に急速に進化するテクノロジーの分野では顕著です。
この曖昧性の下では、従来のデータや経験に基づくアプローチが常に有効とは限りません。新しい技術の台頭や市場の変化は、予測不可能な結果を生み出しやすく、これまでの成功モデルが未来においても同様に機能するとは限らないのです。
そのため、企業や組織は、この不確実性を理解し、柔軟かつ創造的な思考で新しい戦略を立てる必要があります。
Ambiguityは、変化する環境に適応するための新たな考え方や手法を模索するきっかけとなる重要な概念です。
VUCA時代に求められる経営戦略
VUCA時代に求められる経営戦略とはどのようなものでしょうか。
従来の経営戦略とVUCA時代に求められる経営戦略の違いについて見ていきましょう。
後述するOODA思考にも必要な内容になっています。
従来の経営戦略とVUCA時代の経営戦略
従来の経営戦略は、市場や業界の動向が比較的予測しやすい環境下で形成されました。
企業は長期的な視点で計画を立て、市場での競争優位を確立するために、確固たるビジネスモデルを追求することが一般的で、今でもこの方法によってシェアを拡大している企業はたくさんあります。
市場の需要と供給が安定しており、競合他社も限られている場合、事業戦略は明確で、リスク管理も比較的容易でした。
例えば、大手企業は市場のシェアを維持するために、ブランド力や製品の差別化、コストリーダーシップなどの戦略を採用し、新規参入者に対する障壁は高く、確立された企業が市場を支配していたため、競争は限られたプレーヤー間で行われていました。
しかしながら、デジタル技術の台頭やグローバル化の進展により、市場環境は大きく変化しつつあります。
情報の流通速度が加速し、新しいビジネスモデルが次々と登場し、企業は予測不能な状況に直面しています。
これにより、従来の経営戦略だけでは不十分となり、柔軟かつ迅速な意思決定が求められるようになっています。
この変化は、企業にとって新たな挑戦であり、VUCA時代における適応力の必要性を示しています。
VUCA時代に求められるDX的な経営戦略
VUCA時代ではDX的な経営戦略が重要になると言われていますが、具体的な経営戦略の内容について見ていきましょう。
ビジョンの可視化と共有
VUCA時代の経営において、企業のビジョンを明確にし、それを組織全体で共有することは非常に重要です。
明確なビジョンの提示は、不確実な市場環境や急速に変化する業界の中で、方針のブレを防ぎ、組織全体の意思決定をスムーズにする役割もあります。
迅速な経営判断
VUCA時代は予測不能な出来事が頻繁に起こるため、企業は迅速かつ柔軟な意思決定を行うことが不可欠です。
市場や技術の変化に迅速に対応し、機会を逃さないためには、経営陣だけでなく、現場レベルの従業員も含めた迅速な意思決定プロセスが求められます。
データ利活用
時代の変動性と不確実性に対応するため、データドリブンなアプローチを取り入れることが求められています。
リアルタイムの市場動向、顧客行動、内部業績などのデータ分析を通じ、迅速かつ的確なビジネス判断を下すことが可能となります。
さらに、データを活用することで、従業員一人ひとりが情報に基づいた意思決定を行い、組織全体の意思決定の質とスピードを向上させることができます。
市場の変化や新たなトレンドに柔軟に対応し、競争優位を築くことが可能になるのです。
DXによるデータドリブン経営は単なるデータ活用とは違います。
詳細は以下の記事も参考にしてください。
「DXとデータ活用の違いは何?DX推進によるデータ利活用との違いを解説」
ダイバーシティの推進
様々な価値観やバックグラウンドを持つ人材を取り入れ、多様な視点からのアイデアや解決策を生み出すことが不可欠です。
従来の一律的な思考や手法では、急激な市場や技術の変化に対応することが難しく、イノベーションの創出にも限界があります。
ダイバーシティを推進することで、組織は異なる背景を持つ個人からの豊かな視点を得ることができます。
新しい消費者のニーズや市場の動向を敏感に捉え、それに応じた柔軟な戦略を展開することは市場での競争優位性を確保するために必要不可欠です。
DX推進
変化の激しい状況に効果的に対応するためには、DXの積極的な推進が欠かせません。
企業はデジタル技術を活用して、ビッグデータの分析や消費者行動の予測、市場トレンドの追跡をすることができます。
DXを通じて業務プロセスの効率化や自動化を図ることは、従業員がより創造的かつ戦略的な業務に集中できる環境を作り出すことにもつながります。
VUCA時代においては、不確実性が高まる中で、DXの推進は企業が持続的な成長を遂げるための重要な戦略となります。
デジタル技術の力を最大限に活用し、変化に柔軟に対応することが、企業にとって不可欠な取り組みであると言えるでしょう。
VUCA時代を生き抜くOODAループ思考
VUCA時代を生き抜くために注目されているOODAループ思考を具体的に見ていきましょう。
OODAループ思考とは?
OODAループは、米国の戦闘機パイロットであるジョン・ボイドによって提唱された概念で、迅速な意思決定プロセスを指します。
この思考プロセスは、
「観察(Observe)」「指向(Orient)」「決定(Decide)」「行動(Act)」
の四つの段階から構成されています。
VUCA時代において、このOODAループは特に重要です。
不確実性が高い環境の中で迅速かつ効果的な意思決定を行うために、このループを素早く繰り返し行うことが求められます。
各ステージを素早くかつ柔軟に進めることで、変化に適応し、有利な状況を作り出すことが可能になるでしょう。
Observe (観察)
OODAループの最初のステップ「観察」は、周囲の情報を敏感に捉えることを意味します。日常的な状況でも、意識して周りを見ることで、普段は気付かない情報や詳細が見えてくることがあります。
例えば、安全管理が重要な工事現場で行われる指差し確認は、この「観察」の一例です。明確な意図を持って環境を見ることで、危険な箇所や改善点が明確になります。
さらに、この「観察」ステップは、自身の状況認識を深めるためにも重要です。
日常生活であれビジネスシーンであれ、周囲の状況や変化を正確に捉えることが、有効な意思決定に不可欠です。
特に、習慣化された行動や場所でも、意識して観察することで、新たな発見や洞察が得られるかもしれません。
OODAループの「観察」ステップは、単に物事を見るのではなく、積極的に環境を理解し、そこから情報を抽出するプロセスであると認識しましょう。
Orient(状況判断)
「Orient(状況判断)」は、収集した情報を元に現状を正確に理解し、その情報を自身の知識や経験、価値観と結び付けて解釈するプロセスです。
具体的には、観察によって得られた情報を、自分の世界観や過去の経験、そして現在の環境に照らし合わせて分析します。
このステップでは、自社の事業環境や競合他社の状況を総合的に理解し、今後の行動に必要な方向性を定めることが重要です。
「Orient」のプロセスは、個人の主観や経験に基づくため、人によって解釈が異なることがあります。
それぞれの理解の仕方が異なるため、同じ情報を基にしても、異なる意思決定や行動につながることがあります。
この違いを理解し、多様な視点を取り入れることが、効果的な状況判断には不可欠です。
Decide(意思決定)
「Decide(意思決定)」は、収集した情報と自身の分析に基づいて、具体的なアクションプランを策定します。
この段階での課題は、得られた洞察を活用して、現実的かつ効果的な意思決定を行うことです。
どのような行動を取るかは、分析した状況や自身の目標に応じて異なりますが、迅速かつ柔軟である必要があります。
VUCA時代においては、状況が常に変化しているため、決定したアクションプランは柔軟に調整する必要があります。
また、意思決定は単なる計画の段階に留まらず、次の「行動(Act)」ステップにつながるため、実現可能性と効果の見極めも重要です。
Act(実行)
「Act(実行)」は、OODAループのプロセスにおいて、計画された行動を具体的に実施する段階です。
ここで重要なのは、意思決定に基づくアクションプランを現実の行動に移すことです。
実行の際には、計画通りに進んでいるか、期待された成果が得られているかを継続的に評価し、必要に応じて計画の修正や改善を行います。
また、実行段階では、計画と異なる状況や予期せぬ障害に直面することもあります。
このような場合、柔軟な対応と迅速な修正が必要となり、PDCAサイクル(計画・実行・評価・改善)を意識しながら行動を調整することが求められます。
VUCA時代に個人に求められること
VUCA時代を生き残るためには企業や組織をあげての取り組みも重要ですが、個人としての取り組みも見過ごせません。
VUCA時代に個人に求められることについて解説していきます。
情報の取捨選択
VUCA時代においては、急激な環境の変化に伴い、大量の情報が絶えず流れてきます。
このような状況では、情報の質と信頼性を見極め、必要な情報を効果的に取捨選択する能力が求められます。
情報収集の際には、広範囲にわたる一般的な情報源だけでなく、自分の専門分野や興味関心に関連する深い情報を得るための信頼できるソースを選ぶことが重要です。
インターネットやSNSは即時性のある情報を提供しますが、その情報の正確性や専門性は必ずしも保証されていません。
したがって、オンラインの情報源とともに、専門家による書籍や信頼できる出版物、現場の第一線で活動している人々からの直接的な情報をバランスよく取り入れることが肝要です。
また、集めた情報を基に将来のトレンドを予測する際には、固定観念にとらわれず、柔軟な思考を持つことが大切です。
予測はあくまで参考の一つであり、常に状況の変化に応じて見直しを行う必要があります。
最終的には、収集した情報から得た知見を基にして、新しいアイデアを生み出し、積極的に行動に移すことが求められます。
VUCA時代は変化が速いため、アイデアを実践して結果を見ながら、改善を繰り返していく柔軟な姿勢が重要です。
小さな成功を積み重ねながら、大きな成果へと導くことが、この時代を生き抜く鍵となります。
選択と集中
どんな予測も必ずしも正確ではありません。
このため、情報を基にした予測を行った後は、その正誤に一喜一憂するのではなく、選んだ方向性に対して「やりきる力(=GRIT)」が求められます。
情報収集の結果、大まかな選択の方向性を定めたら、その実現に向けて集中的に努力することが重要です。
VUCA時代には、柔軟な対応が必要である一方で、ビジョンに基づいた一貫性のある行動が不可欠です。
また、「柔軟性」という名のもとに実際には状況に流されてしまうのを避けるため、一度決断したら、一定期間はその選択に集中し、成果を追求する姿勢が求められます。
ポータブルスキル
ポータブルスキルとは、特定の業界や職種、時代背景に左右されない汎用性の高い能力のことを指します。
これにはコミュニケーション能力、問題解決能力、自己管理能力などが含まれ、これらはどのような職場環境でも価値を発揮します。
VUCA時代は不確実性や変化が激しいため、これらのスキルを持つ人材は、多様な状況に柔軟に適応し、価値を提供できる「市場価値の高い人材」として求められます。
また、ポータブルスキルは、「転職力」を高める上でも重要です。
キャリアの転換点において、これらのスキルがあれば、新たな環境への適応や新しい職種への挑戦が容易になります。
自己のスキルセットを常にアップデートし、多様な職業環境で活躍できるように準備することが、先行きが不透明な時代を生き抜くうえでますます重要になるでしょう。
転職でも重要になるポータブルスキルの考え方については以下の記事も参考にしてください。
「転職で身に付けるべきポータブルスキルとは?ポータブルスキルが転職には重要」
テクノロジーへの理解とリスキリング
新しいテクノロジーの登場により、ビジネスの様相が大きく変化しています。
このような環境下では、最新のテクノロジートレンドを理解し、それが自分の業界やキャリアにどのような影響を与えるのかを把握することが必要です。
また、テクノロジーの進化により既存のスキルが陳腐化するリスクがあるため、リスキリング、つまり新しいスキルの習得に積極的に取り組むことが求められます。
自分の業務やキャリアパスにおいて、どのようなテクノロジーが重要になるかを見極め、それに応じたスキルを身につけることで、変化に対応する柔軟性を保つことができます。
行動力
VUCA時代は、不確実性が高く、変化が激しいため、適切に情報を処理し、優れた仮説を立てるだけでは不十分です。
仮説を現実の行動に移し、実際に試してみることが求められます。
例えば、新しいビジネスモデルを考えた場合、それをただ思考の中で完結させるのではなく、小規模ながら実際にプロトタイプを作成し、市場での反応を見ることが重要です。
また、新しいスキルを学んだ場合、それを仕事やプロジェクトに即座に応用し、実践的な経験を積むことも重要と言えるでしょう。
どれだけ素晴らしいアイデアも形にしてこそ意味があります。
情報が民主化されている現代において差が付く唯一の要素は行動力であると言っても過言ではありません。
VUCA時代を攻略したOODAループ思考によるビジネス成功例
VUCA時代を攻略したOODAループ思考によるビジネス成功例を2つ紹介します。
Google マップ
Googleマップが市場に登場した当初、それは単なるデジタル地図に過ぎませんでした。
日本市場への進出時、国内の地図会社はGoogleマップの登場に警戒心を抱きましたが、最初は地図の正確さに欠けていたため安堵していました。
しかし、Googleは国内のパートナー企業と連携を求め、その後「Googleカー」と呼ばれる特殊車両を使って日本全国の地図データを精密化。
Googleマップは、ただの地図を超える進化を遂げ、飲食店の情報やリアルタイムの交通状況などを地図上に追加しました。
現在では、この地図アプリはカーナビゲーションシステムとしても利用され、交通事故が発生した際には迅速に交通渋滞を予測し、代替ルートを提示します。
これは、多くのドライバーが利用するGoogleマップの位置情報データを基にしているためです。
このように、Googleマップはユーザーのニーズに応える新機能を次々と追加し、その利便性から生活に欠かせない存在となっています。
VUCA時代においては、不確実性が高い中で、顧客のニーズを観察し、それに応じたサービスを提供し続けることが成功への鍵です。
新たなサービスを提供し、ユーザーからのフィードバックを受けながら、常に改善を重ねていく姿勢が大切となります。
Gardens by the Bay(ガーデンズバイザベイ)
シンガポールの先進的な植物園「Gardens by the Bay(ガーデンズバイザベイ)」は、新型コロナウイルス感染症の拡大という突然の危機に直面しました。
この状況下で、同園の公式アプリのリニューアルが急務となりました。
当初は観光客向けの機能強化が計画されていましたが、パンデミックの影響で、アプリの開発方針を大幅に転換。
感染防止策を講じたオンラインチケットシステムや入場整理券機能の迅速な導入を行いました。
さらに、国際的な旅行制限により、地元住民を対象とした年間パスの提供など、地域コミュニティにフォーカスした取り組みを強化しました。
まとめ:OODAループ思考によるビジネス展開にはDXが必須
VUCA時代を生き残るためのOODAループ思考について解説してきました。
組織単位で取り組まなくてはいけないことも、個人単位で取り組まなくてはいけないこともあります。
OODAループ思考を身に付け、実践しようとすれば、DX推進の必要性もおのずと感じてくるでしょう。
変化の激しい時代、一つの正解を探すのではなく、仮説を立てて行動して検証するプロセスの繰り返す価値がますます高くなっています。
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